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テキストでつづるエッセイ「ふみの文」
ネットより大きい大屋根の下で

友達とご飯を食べていたとき、彼女は目をキラキラさせて言った。
「ねえ、大阪万博行く? 大阪でこんな世界的なイベント、めっちゃ楽しみなんよ」
当時の私は、万博にまるで興味がなかった。
「世界の情報はネットでいいや、わざわざ行くほどでも…」なんて思っていたし、連日のネガティブニュースにすっかり当てられていた。今思えば、ちょっと心が貧しかった。
それでも幸運なことに、チケットが手に入った。
せっかくならと開幕一週間後に行くことに。
ところが、公式駐車場の情報収集と予約がまあ面倒。
「もう行かなくてよくない?」と本気で思ったくらい、準備で体力を使い果たした。
ところが当日。
あの大屋根リングが見えた瞬間、心が大きく跳ねた。
まだ木の色もくすんでおらず、圧倒的な存在感。
前日にSNSで「木が曲がってる」なんて見て不安になっていたが、完全に杞憂だった。
事前に万博経験者から「とにかく歩く。子どもの体力に合わせて回れ」と助言を受けていた。
さらに「欲しいおみやげがあるなら、入ってすぐ買うべし」と。
娘の狙いがあったので、西ゲートから東ゲートまで一気に横断。
初手から15分のロングウォークである。無事ゲットできたが、午後に見に行くとその店は入場制限。
スタッフが「これ以上は入れません! 並ばないでください!」と叫んでいた。
おみやげ屋ですら行列の万博、恐るべし。
「並ばない万博」って、こういう意味だったのかもしれない(※並べない、の意)。
私はほとんど下調べもせずに来てしまった。
今になって思えば、そりゃもう少し調べておけばよかった。
なにせ、そもそも興味がなかったのだ。
ところが実際に足を運んでみると、楽しんでいる自分にいちばん驚いた。
子どもの足が限界なので、休み休み歩く。
当然、パビリオンは全制覇なんて夢のまた夢。
それでも歩数計は二万歩を超えていた。
「USJのほうが子どもは楽しかったかな…」と一瞬よぎったが、
娘は娘なりに楽しんでいて、いろんな国があることを、ちゃんと肌で感じていたようだ。
夕方、大屋根リングからきれいに電飾がともるパビリオンを眺める。
巨大な円の下に、言葉も文化も違う人たちが、ごちゃっと集まって同じ方向に歩いていく。
ネットの情報は便利だけど、足で歩く二万歩には勝てない瞬間がある。
「世界は画面の中だけじゃないね」と娘が言った。
そうだね。行く前の私に、その一言を送りたい。
帰り道、みんなくたくたになりつつ、どこか充実感をおみやげ袋と一緒に抱えて帰路につく。
「今度はちゃんと下調べして、朝イチで入って、最初におみやげ買ってこね。」と小さく約束を交した。
そんな万博も今日で終幕。車窓に遠ざかる大屋根リングは
写真より大きく、スクロールより温かかった。
歩数計の二万歩は、ただの数字じゃない。
知らない場所へ、少しだけ踏み出した距離のことだ。
いつかまた、同じ約束を叶えに来よう。今度は、最初におみやげから。

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