正体のわからないおじさんに言われた、忘れられない言葉

子どもがまだ赤ちゃんだったころの話だ。
子どもを連れて百貨店に出かけていたとき
通りすがりの男性に、わざわざ呼び止められた。
見た事もない、落ち着いた感じのおじさん。
子どもの顔をじっと見て、
「この子は、とてもいい子になるね」
そう言ってから、少し間を置いて、こう続けた。
「でも、繊細だから。どうか優しく育ててあげてね」
驚きつつ話を聞くと、
その人は、とある日本でも名の知れた宗教都市で
お坊さんをしているのだと言った。
突然すぎる出来事だったので
反応のにぶい私は
それ以上は何もきけずもたもたしているうちに
「じゃ」と去って行った。
それから、ずいぶん時間が経った。
あの赤ちゃんは、もうほとんど大人の仲間入りだ。
客観的に見てみて彼女は
たしかに多少繊細だと思う。
人間関係が得意なタイプでもない。
でも、とても素直で、
ときどき驚くほど、人の気持ちの深くを見透かしたような
言葉を口にする。
そしてとても傷つきやすく、その分優しい。
それを実感するたびにおじさんの事を思い出し
「当たってるなあ」と思う瞬間もあれば、
「いや、たまたまだよな」と思うときもある。
あのおじさんが何者だったのかは、結局わからない。
後日、たまたまその地域に住んでおり
お坊さんたちとも多少つながりがある人と
話す機会があり、この話をしたら
「そんな人、知らんな」と言われた。
ということで
本当にお坊さんだったのかどうかも、正直怪しい。
それでも、なぜか今も、ふとした拍子に思い出す。
子どもの成長を見ているときや、
少し心配になったときに。
そのたびに少しだけ「あ、いまのままでも大丈夫かも」
と思ったりする。
なぞのおじさんの予言を
愚直に信じているわけじゃない。
ただ、あのとき
「優しく育ててあげてね」と言われたことだけが、
子育てで疲れた記憶の澱の中に
静かに残っている。
知らない人の言葉なのに、
知らない人だからこそ、
ずっと心のどこかにしまわれているのかもしれない。
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